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2025年01月27日

介護における「尊厳を守るケア」とは? 利用者に寄り添うケアの実践法を解説

介護における「尊厳を守るケア」とは? 利用者に寄り添うケアの実践法を解説

介護サービスを受ける多くの高齢者は、年齢と共に様々な疾患を患い、日常生活のサポートを必要としています。

しかし、たとえ身体機能や認知機能が低下してしまっても、一人の人間として「その人らしい生き方」があることは変わりません。
介護サービスを提供する際はそのことを忘れず、利用者さんの尊厳を守ることが大切です。

では具体的に「尊厳」とは何でしょうか?
どうすれば尊厳を守るケアが実践できるのか、意識すべき4つのポイントを、事例とともに紹介します。

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介護をする上で尊厳を守るのはなぜ?

尊厳とは

「介護」という言葉からは、「食事を食べさせてもらう」「おむつを替えてもらう」「お風呂に入れてもらう」といった、“お世話してもらう”イメージが先行しがちです。

しかし、介護サービスを受ける高齢者も一人の人間である以上、自尊心やその方自身の望む生活があります

ここでは、なぜ介護をする上で尊厳を守る必要があるのか、その重要性について解説していきます。

人間の尊厳とは?

日本国憲法では、国民の権利および義務について以下のように定めています。

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

出典:日本国憲法(第十三条)

私たちは普段、年齢や性別に関係なく、自分の生き方を自分なりに考え、意思決定して生活を送っています。

人間の尊厳とは、そういった一人ひとり異なる多様な生き方を尊重されることだと言えるでしょう。

尊厳は、たとえ介護が必要な状態になっても失われるものではありません
加齢や疾患、認知症などで心身機能や判断能力が低下しても、一人の人間として「その人らしい生き方」を尊重される権利があります。

そのため、介護サービスを提供する場でも、利用者さん個々の尊厳に配慮することが必要です。

「尊厳の保持」は法律で定められている

高齢者や認知症の方の尊厳を守ることは、法律でも定められています

介護保険法の第一条には、要介護者等の尊厳について次のように記載されています。

加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。

出典:介護保険法(第一条)

2024年1月1日に施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」第一条には、「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができる」社会の実現を推進することが示されました。

どちらの法律にも、要介護状態や認知症になった方の尊厳を守りながら、自立した生活を送れるよう支援する旨が記載されています。

介護保険法や認知症基本法に「尊厳の保持」が明記されている背景には、高齢化の進行や認知症患者の増加などが挙げられます。

日本は2007年に65歳以上の高齢者人口が21%を超え、超高齢社会を迎えました。
2023年10月1日時点の65歳以上人口は3,623万人で、高齢化率は29.1%となっています。

認知症患者数も年々増加傾向です。
認知症施策推進関係者会議の統計資料によると、2022年時点で高齢者の約12%が認知症約15%が軽度認知障害(MCI)だと報告されました。

以下の表の通り、今後も認知症の有病率は高まると予測されています。

■認知症・MCIの将来推計

  認知症 軽度認知障害(MCI)
患者数 有病率 患者数 有病率
2022年 443.2万人 12.3% 558.5万人 15.5%
2040年 584.2万人 14.9% 612.8万人 15.6%
2050年 586.6万人 15.1% 631.2万人 16.2%
2060年 645.1万人 17.7% 632.2万人 17.4%

出典:「認知症及び軽度知的障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」

このように高齢者や認知症患者が増え、社会でより身近な存在となる中、尊厳を守りながら支え合える環境づくりが重視されています

参照
「平成19年10月1日現在推計人口」(総務省統計局)
「令和6年版高齢社会白書」(内閣府)
「認知症及び軽度知的障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(第2回認知症施策推進関係者会議資料より)

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尊厳を守るケアとは?

尊厳を守るケアとは

介護をする上で、相手の尊厳を守ることは重要です。
では、尊厳を守るためにはどういったケアを行えばよいのでしょうか。

「2015年の高齢者介護」では、高齢者の尊厳を支えるケアとは「たとえ介護を必要とする状態になっても、その人らしい生活を自分の意思で送ることを可能とすること」と示されました。

個人の意思を尊重し、最期までその人らしい人生を送れるよう、心身の両面から自立をサポートすることが求められています。

例えば、次の方に対するケアを考えてみましょう。

●脳梗塞により、左半身麻痺の後遺症あり
●病院から退院したあと活動意欲が低下し、閉じこもりの傾向にある

この方を「病気があるから何もできない」「外に出たがらない」と決めつけてしまうと、尊厳が損なわれる可能性があります。

重要なのは、病気を中心に相手を見るのではなく「病気の有無に関わらず、この人はどんな生活を望んでいるのか」を考え、本人の意思に寄り添うことです。

また、残された右半身の機能を活かして何ができるかを考えたり、地域や組織で活躍できる場を見つけたりと、自立を促す視点も欠かせません。

要介護状態にあっても、社会から個人として尊重され、その人らしい生活を目指せるように支援することが、尊厳を守るケアの本質といえるでしょう。

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尊厳を守るケアを実践するには?

尊厳を守るケアの実践方法

高齢者の尊厳を損なわず、豊かな生活を送ってもらうには、身体面と精神面の両面から自立を支援し、個人の意思を尊重してケアを行うことが大切です。

尊厳を守るケアを実践するためのポイントとしては、以下が挙げられます。

ノーマライゼーションを理解する

尊厳を守るケアを提供するためには、ノーマライゼーションの理念を理解することが重要です。

ノーマライゼーションとは、障害の有無に関わらず、誰もが当たり前に生活できる社会や環境を目指す考え方のこと。
厚生労働省は「障害のある人もない人も互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会を目指す理念」と表現しています。

ノーマライゼーションはもともと障害福祉分野で提唱された考え方ですが、高齢者福祉においても不可欠な視点です。

年齢や疾患の有無にかかわらず、高齢者一人ひとりが自立した生活を送れるよう支援するという介護保険の基本理念ともリンクしています。

ノーマライゼーションの考え方を意識してケアを行うことで、利用者さんの尊厳を守ることができ、生活の質(QOL)の向上にもつながるでしょう。

接遇マナーを守る

介護の現場で利用者さんの尊厳を守るには、適切なマナーと思いやりの心を持って接することが大切です。

以下は、サービス提供をする上で基本となる「接遇マナー5原則」と呼ばれています。

●挨拶
●表情
●態度
●言葉遣い
●身だしなみ

気持ちのいいコミュニケーションをとれるよう、上記のポイントを意識しましょう。

≪関連記事:接遇マナー5原則を解説!≫

ここでは、接遇マナー5原則の中から「表情」と「言葉遣い」について、介護施設でよくある良い例・悪い例を紹介します。

 表情 

<悪い例✕>
・利用者さんの話を聞く際、内容に関係なく、硬い表情や無表情で対応する。
・身体介助を行う際、不安そうな表情で対応する。

<良い例◎>
・楽しい話題には笑顔で、深刻な話には真摯な表情で耳を傾ける。
・昔の仕事や苦労話など、感情を伴う話の場合は、目線を合わせて寄り添うような態度を心がける。
・ケアを提供する際には、穏やかな表情や笑顔で向き合い、利用者さんが不安を感じないよう配慮する。

 
 言葉遣い 

<悪い例✕>
・利用者さんを「〜ちゃん」、呼び捨て、あだ名などで呼ぶ。
・更衣や移動介助を行う際に「早くして」と急かす言葉をかける。

<良い例◎>
・「〜様」や「〜さん」といった敬意を込めた呼び方をする。
・利用者さんが自分で生活動作を行っている際は「ゆっくりで大丈夫ですよ」や「転ばないように気を付けてください」といった、安心感を与える言葉をかける。

利用者さんは加齢や疾患などにより何らかのサポートを必要としていますが、職員にとってはお客様であり、人生の先輩です。

「体が不自由だから」や「認知症ですぐに忘れてしまうから」などと、乱暴な態度や言葉遣いをしてはいけません。

相手を尊重する気持ちを持ち、ケアや言動で示すように心がけましょう

虐待をしない

利用者さんに対して「できないことを怒鳴る」「必要なケアを行わない」などの行為は虐待に当たり、尊厳を著しく傷つけてしまいます。

高齢者への虐待は法律でも禁止されています。2005年に制定された「高齢者虐待防止法」では、以下のような行為が虐待にあたると定義されました。

①身体的虐待
身体に外傷が生じるまたは生じるおそれのある暴力を加えること
②介護・世話の放棄・放任
衰弱させるような著しい減食、長時間の放置など、養護を怠ること
③心理的虐待
著しい暴言または拒絶的な対応など、心理的外傷を与える言動をとること
④性的虐待
わいせつな行為をするまたはさせること
⑤経済的虐待
財産を不当に処分したり、不当に財産上の利益を得たりすること

参照:厚生労働省「Ⅰ高齢者虐待防止の基本」

上記の中から「身体的虐待」と「心理的虐待」について、介護施設で起こり得る具体例を挙げて解説します。

【身体的虐待の例】
利用者Aさんはベッドから車いすへ移る際、バランスを崩して転倒してしまうリスクがある。そのため、一人で立ち上がれないよう手首や足をベッド柵に固定した。

この例では、本人の意思や対応策の検討が不十分なまま、行動を抑制してしまっています。
まずはAさんが「なぜ車いすに移りたかったのか」を確認すること。それから安全に移乗する方法や、適切な福祉用具の使用などを協議するとよいでしょう。

【心理的虐待の例】
利用者Bさんは認知症があり、排泄を失敗してしまうことがある。その際に「何回言えばわかるの」と叱責し、他の職員に大きな声で状況を共有した。

この例では、本人の思いや羞恥心への配慮が欠けてしまっています。
まずはBさんの立場を想像して、声かけやケアを行うよう心がけましょう。
業務が立て込んでいるときは無理に一人で対応せず、職員間で協力することも大切です。ただし、他の利用者さんやご家族の前で話さないなど、一定の気配りも忘れないでください。

個人で虐待を防ぐには限界があります。
職場や家族など、周囲の人と協力しながら虐待防止を図り、尊厳を守るケアにつなげることが大切です。

利用者さんの意思決定を支援する

私たちは普段、どの服を着るか、何を食べるか、どこに行くかなど、自ら考えて決定しています。

このように「自分の生活を自分の意思で決定し、組み立てたい」という思いは年を重ねても変わらないでしょう。

そのため、尊厳を守るケアを実践するには、日常生活の様々な選択を自己決定できるよう支援する視点が欠かせません。

認知症により判断能力が低下している方や、寝たきりで意思を伝えづらい方に対しても、意思決定のサポートは必要です。

意思を決めたり表したりするのが困難な場合には、以下のポイントも踏まえてアプローチしてみましょう。

●表情や身振りから気持ちを汲み取る
●わかりやすい言葉や図を使ってコミュニケーションを図る
●介護が必要になる前の生活歴や、大切にしていた思いをご家族から聞き取る

利用者さんについて多面的に情報収集することで、より「その人らしい生き方」の実現に一歩近づけます。

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尊厳を守るケアの課題と解決策

尊厳を守るケアの重要性を理解していても、働く環境によって「継続的に実践するのが難しい」という場合もあるでしょう。

介護の現場では、以下のような課題によって「尊厳の保持」が抜け落ちてしまうケースがあります。

ここでは、上記の課題とその解決策について解説します。

職員の意識に差があるケース

利用者さんの尊厳を守るには、ケアを提供する職員全員が共通の意識を持っていることが重要です。

介護サービスは介護職や看護師、リハビリ職など多職種のチームで取り組むため、特定の職員だけが良いケアを行っても、利用者さんの生活の質を上げることは難しいでしょう。
また、一人の職員に負担が集中すれば、結果として虐待や離職につながる可能性もあります。

そのため、チーム全体で「尊厳」の意味を確認し、ケアの方向性を統一することが大切です。

ケアの考え方や方向性をすり合わせるには、ユニット会議・フロア会議といった小規模な会議や、職員全体のミーティングを活用するのが効果的。
職場の実例も踏まえて話し合うと、より実のある議論になり、他人事ではない意識が定着しやすくなります。

人手不足で余裕がないケース

人手不足の職場では、精神的にも時間的にも余裕がなくなり、尊厳を守るケアが実践しづらくなることも。

普段は丁寧な接遇マナーを意識している職員でも、つい言葉遣いが荒くなったり、利用者さんの行動を急かしてしまったりすることもあるでしょう。

介護業界の人手不足は深刻な課題です。
厚生労働省のデータによると、2022年度時点の介護職員数は約215万人。2040年には+57万の約272万人が必要になると予測されています。
国は介護人材を確保するため、処遇改善やテクノロジーの活用を進めていますが、これだけで人員不足がすぐに解消されるわけではありません。

限られた人員と時間の中で利用者さんの尊厳を守るには、業務内容を見直し、改善していくことも重要です。

たとえば、ケア記録の書き方や申し送りの方法は今のやり方がベストでしょうか。

日々当たり前にやっているルーティン業務を見直すと、ケア以外の部分でも効率化の余地があるかもしれません。

ただし業務改善を行う際は、利用者さんにとってのメリット・デメリットを考えることも忘れないでください。

季節のイベントや外出レクなどの活動が過度に削られると、生活の質や満足度に悪影響を及ぼす可能性があります。

職員の働き方と利用者さん視点のバランスを考慮して、より良いケアが実践できる環境づくりを目指しましょう。

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まとめ

介護サービスを提供する際は、利用者さんの尊厳を守り、その人らしい生活を送れるよう支援することが重要です。

尊厳を守るケアを実践することで、利用者さんの生活の質が向上し、介護職員自身の仕事のやりがいにもつながります。

介護に携わる方は、ぜひ今回解説した4つの実践ポイントを意識してみてください。

\介護・医療・福祉業界の転職専門!/

 

著者:ak5673
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設などで介護の経験を積む。現在は居宅介護支援事業所の主任介護支援専門員として勤務しながら、介護に関する記事を執筆中。
介護福祉士会や介護支援専門員の研修の講師、ファシリテーターも務める。
介護福祉士、主任介護支援専門員、社会福祉主事任用資格、レクリエーション・インストラクターなどの資格を取得。

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