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2020年08月06日

ALS安楽死事件から考える:難病の不安と「ピアサポート」

難病ALS患者の「安楽死」が事件に

2020年7月、医師2人が嘱託殺人の容疑で逮捕されるという衝撃的な事件がありました(*)。SNSで知り合ったとされる主治医ではない2人の医師が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う女性本人からの依頼で、薬物を投与して殺害したというのです。

難病を持ちながら暮らす多くの利用者、その家族、そして介護職をはじめ、多くの支援職にとって、これは非常に重く、悲しい事件です。

容疑者の医師による薬物の投与は、訪問介護中のヘルパーが5~10分、別室にいた間に行われたとのこと。このヘルパーの受けたショックはいかばかりかと思います。

関連記事:日本で安楽死は合法化されるのか―尊厳ある生と死をオランダから学ぶ



ALS(筋萎縮性側索硬化症)とはどのような病気か?

介護職の皆さんはALSがどのような病気か、ある程度はご存知のことと思います。
しかしここで参考までに、日本神経学会のホームページでのALSに関する説明を以下に抜粋して紹介します。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)について
・手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉が徐々にやせて力がなくなっていく
・筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かすための脳や脊髄(せきずい)の神経(運動ニューロン)だけが障害をうける
・脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉がやせていく
・一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれる
・この病気は常に進行性で、一度この病気にかかると症状が軽くなるということはない
・やがては全身の筋肉が侵され、最後は呼吸筋も働かなくなって多くの方は呼吸不全で死亡
・人工呼吸器を使わない場合、病気になってから死亡までの期間はおおよそ2~5年
・原因は不明
・治す薬はない
※一般社団法人日本神経学会ホームページより引用(語尾等を一部改変)

“難病の自分”を受け入れるしかない現実

この説明を読んで、どう感じましたか。
もし、自分がALSの診断を受けたとしたらどんな気持ちになるでしょうか。

医師からALSだと言われ、病気についての説明を受ける。
自宅に帰り、インターネットでALSについての情報をむさぼるように読む。
そして、厳しい病状説明に打ちのめされる……。

ALSは、体が動かなくなっても、多くの場合、意識はクリアです。そのため、ALSを持つ方には、「動かない体に閉じ込められる」と表現する方もいます。診断を受けて、“ALSになった自分”を受け入れていくのは、並大抵のことではないと感じます。

ALSは、進行性で治療薬がないという点は、認知症と似ています。
治らない病気という診断を受け、それを受け止めて生きていかなくてはならない現実がどれほどの痛みを伴うものか、それは診断を受けたことがない者が本当に理解することは困難です。

亡くなったこの女性を支援していた介護や医療の関係者も、この事件により、「理解できていなかった」と、猛烈な無力感に襲われているかもしれません。本当に胸が痛みます。


「生きたくないよ」辛いメッセージから垣間見える不安

亡くなった女性は、すでに体が動かなくなり、24時間の介護を受け、視線で意思表示をするという難しい段階にある方だったと報じられています。

そして、この女性は一人暮らしだったとのこと。
一人暮らしだというだけでも、難病を持って暮らす方にとっては、不安や恐怖など、心理的負担が大きかったことと思います。

この女性には、そうした様々な思いをゆっくりと話せる人、悩みや不安を相談できる人は、身近にいなかったのでしょうか。

ブログで、「こんな姿で生きたくないよ」とつづっていたというこの女性。

「生きたくない」という思いをインターネットの中ではなく、現実の生活の中で語り、それを受け止める人がいれば、何か違っていたかもしれません。


病気・障害の不安を共有できる「ピアサポート」の力

ある論文で、20代でのバイク事故によって脊椎を損傷し、四肢マヒに近い状態となった女性が、絶望的な気持ちから前向きな気持ちになっていく変化についての研究が記されています。

この女性は一時、「一生、他人の世話を受けるなら、生きている意味はない」とまで考えていました。しかし、リハビリ病院に転院後、脊髄損傷患者会を通じて同性の脊髄損傷者と知り合ったことで変わっていきます。

同病の女性に不安を語り、暮らしていく上で必要な情報を得て、さらには、脊髄損傷があっても旅行に行くなど前向きに暮らしている人たちの存在を知ることで、未来に希望を持てるようになったのです。

認知症もピアサポート(同病者など、対等な立場の仲間同士で支え合うこと)の持つ力が注目されています。治療法のない進行性のこうした難しい病気では、支援職の言葉より、同病者の言葉の方が受け入れやすいことを感じます。

厳しい心身の状態にある利用者を支援する介護職などの支援職は、「自分が支えなくては」と気負いすぎないことが大切です。一人で支えるのではなく、多職種での協働、そして、こうしたピアサポートにつなぐ役割を果たしていただければと思います。

<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子

*ALS患者死亡、嘱託殺人容疑で医師2人逮捕 京都府警

 

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