■書名：家族と迎える「平穏死」――「看取り」で迷ったとき、大切にしたい6つのこと
■著者：石飛幸三
■発行：廣済堂出版
■発行年月：2014年3月
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家族が後悔しない「看取り」のために、介護職ができることとは？
「スパゲティ症候群」という言葉を聞いたことはないだろうか。
病気の治療のために、身体中にチューブやセンサーが取り付けられた重症患者のことを『スパゲティ症候群』と呼ぶのだという。
「このような状態になってまでも、自分自身は生きていたくない」と考える人も少なくないと思われる。
しかし、それが自分自身のことではなく、家族であった場合はどうだろう。「少しでも生きていてほしい」と、治療の継続を望む人もいるのではないだろうか。
本書の著者である石飛幸三さんは、特別養護老人ホーム・芦花ホームの医師である。
石飛先生は同ホームで、数多くの「利用者と家族の看取りの物語」に立ち会ってきた。その経験から「何もしないという選択は、美しい最期」という結論にたどりついた。
利用者一人ひとりの身体の状態を見ながら、いのちの終わりは自然に任せることが、美しい死に方であるというのだ。
弱ってきた家族に対して「もう一度元気になってほしい」と思うのは当然のこと。そこで栄養補給として、胃ろうや点滴などを通し、必要以上の人工的な栄養補給を行うとどうなるだろう。
胃ろうで身体が受け入れられないほどの食べ物が胃に流しこまれると、誤嚥性肺炎のリスクが高まるという。
また、水分が体に溜まりすぎると、痰の量が増えて吸引が必要になる場合もあるそうだ。その様子は「おぼれているような苦しい状態である」と石飛先生はいう。
胃ろうや点滴を否定しているわけではないが、介護スタッフや家族は、“その先に何が起こるか”を考える必要があると語っている。
だからといって、衰弱した本人に“何もしない”という決断を、すぐに下せる家族は少ない。
「何もしないなんて、見捨てるかのようだ」
「もしかしたら、体調がまた復活するかもしれない」
家族はさまざまな思いを抱えて悩む。そのため、利用者にとって「自分らしい最期」は何なのか、どのような選択肢があるのか、家族と何度も話し合うという。
決断したとしても、その気持ちが揺らぐ時だってあるだろう。介護をする側は、そのような不安な気持ちを抱える家族に寄り添い、利用者の長い人生を無事に終わってもらえるよう、見守り、支えることが大切なのだと石飛さんは語る。
これまで、「何もしないこと」が美しい最期につながると解説してきたが、「生きる力がある高齢者」になると話は別だ。
本書では、高齢者でも回復する力があれば、自然に身体は元の状態に戻るようになっていると述べられている。
例えば、「食べたい」という欲求は、人間を前向きな気持ちにさせる。本書では、胃ろうをすすめられた高齢者が、うなぎを食べて元気を取り戻した話や、ビールを飲みたいという利用者のリクエストに応えた話も盛り込まれている。
高齢者の「食べたい」という気持ちに応えるには、普段からの準備も大切だ。唾液の分泌を促す口腔マッサージや、咀嚼力をアップする下肢の筋力を鍛える運動なども、イラスト入りで解説されている。
＜どんなに迷い続けても、納得のいく看取りをした方は、その人を失った悲しみを昇華していくことができます。
残された者たちがその人の死に際について、いかに納得して送り出すことができたか。そのことに後悔はないか。そして介護の現場の人間が、ご本人やご家族をどう支えていくことができるのか＞
介護施設や病院だけでなく、今後は在宅で看取りを行うケースも増えてくるだろう。そのようなときに家族や高齢者をどのようにサポートしていくか、考えさせられる。
著者プロフィール
石飛 幸三（いしとび・こうぞう）さん
慶應義塾大学医学部卒業。外科学教室に入局後、ドイツのフェルディナント・ザウアーブルッフ記念病院で血管外科医として勤務。その後東京都済生会中央病院に勤務し、頚動脈内膜剥離術など血管外科の発展に寄与する一方、慶應義塾大学医学部兼任講師として血管外傷を講義。
2005年より、特別養護老人ホーム・芦花ホーム常勤医。芦花ホームのスタッフや入所者家族とともに実践してきたことをもとに、「看取りの心得」の提案も行っている。
